(北尾)大阪市内の高校ではラグビー部に所属していて、大学ではアメリカンフットボール部で活動していました。専攻は生命科学、いわゆるバイオテクノロジーの分野です。就職するにあたっては、専門分野を生かして大好きな日本酒を作る仕事に就きたいと思いました。ただ、コロナの影響もあって大阪近辺の酒造会社は全く新規採用の募集がなかったんですよ。そんな時に香住鶴の求人を見つけました。毎年のようにカニを食べに城崎温泉などに来ていたので但馬地方になじみがありましたし、香住鶴も飲んだことがあってとてもおいしかった印象があったので、こちらへの就職を決めました。
(池村)高校時代はサッカー部でしたが、大学時代はバイトしたり遊んだり…卒業時には内定をもらっていた企業もあったんですが、留年してしまいました。翌年も卒業できそうになかったので就活をしなかったら卒業になってしまい、そこからは派遣の形でいろいろな仕事をしました。淡路島や神奈川県の工場で働いていたこともあります。そんな状態で気が付いたら十年近く経っていたのですが、結婚を前提に交際していた彼女(現在の妻)がいたので、そろそろきちんと正社員として就職しないといけないと思い、心機一転2021年の春に妻の実家(香住)に近い豊岡にやってきました。そこでアルバイトをしながら正社員の求人を探し、2022年の秋に香住鶴に入社することになりました。
(北尾)一番戸惑ったのは「カメムシの多さ」でした(笑)。大阪ではカメムシはほとんどいなかったので。あとは、やっぱり雪ですね。雪かきもしたことがなかったですし、雪道の車の運転も初めてで怖かったです。
(池村)私はそれほど不便や戸惑いは感じなかったですね。しいて言えば、クルマ社会なので「仕事終わりに飲みに行く」ということができないことくらいでしょうか。雪かきにも実は憧れがあって、最初は楽しかったです。5回目くらいからは「もうええわ」ってなりましたけど(笑)
(北尾)酒造りの中の最初の工程である、原料処理を担当しています。酒米は、洗って糠などを取り除いた後、「浸漬(しんせき)」といって一定量の水を吸わせ、その後「甑(こしき)」という蒸し器で蒸します。米の種類や状態によって浸漬や蒸す時間が変わってくるので、間違えないように注意しながらやっています。
酒造りは秋から春にかけての作業なので、季節によって忙しさが全然違います。冬場は、朝5時から作業が始まりますし、昔はほとんど休みなしだったようですが、いまは月に数日は休みがとれています。一方で5月~9月くらいはかなりまとまって休みをとることができます。この時期の主な仕事は、田んぼで酒米を自分たちで作ることと、梅酒を作ることなんですよ。
(池村)私はまだ入社して数か月しか経っていないので、どうやってお酒ができるかを学んでいる段階です。酒造りに使う器具の洗い物をしたり、酒を絞った後の酒粕をはがす作業をしています。最近になって、麹を作る作業の手伝いもさせてもらっています。最初のうちは全く作業の流れが分からないので、スピード感のある作業についていけなかったんですが、ようやく少しずつ流れが分かってきて、楽しくなってきた段階です。
(北尾)酒造りって肉体労働だなって感じます。もっと機械化している酒造メーカーさんもありますが、香住鶴は昔ながらの製法で、手間暇をかけて作っているので。
でも、大好きな日本酒を作る仕事に携われているので、楽しいです。ゆくゆくは酒母や麹といった、お酒の味を直接左右する仕事に携われるようになって、自分の思い通りにお酒を作れるようになりたいですね。
(池村)私は営業部を希望しています。但馬のスーパーでも香住鶴のコーナーを設けてくれているお店もありますし、一人でも多くの人に香住鶴のことを知ってもらって飲んでもらいたい、そんな気持ちを持っています。香住鶴を目当てに但馬に人が来てくれて、それで但馬が盛り上がってくれたらいいなと思っています。ただ、そのためには香住鶴がどうやって作られているかをきちんと学ばないといけないので、今は一生懸命酒造りのことを学んでいる段階です。
北尾さんは2年目のシーズンに入り、去年よりもずいぶん仕事に慣れてきたと感じています。次のシーズンからは原料処理を一人で取り仕切れるようになってほしいですし、それ以外のことにも少しずつ関わってもらいたいと期待しています。
池村さんはまだ酒造りの流れを勉強している段階です。配属がどうなるかはまだ分かりませんが、例えば京阪神のデパートの試飲イベントでも、実際にお酒を作っている者が行って説明するとお客様に対する説得力が全然違います。今はまず酒造りのことをしっかりと覚えてほしいですね。
奇しくも同じ2021年春に但馬にやってきたお二人ですが、それまでの経歴はかなり対照的でした。ただ、「香住鶴」への思いの強さは同じだとも感じました。また、「酒造りは冬の仕事」と知ってはいたものの、季節によって忙しさが極端に違うというのも驚きでした。
香住鶴は創業1725年、地元の食材である松葉ガニや魚介類、但馬牛等に合う旨い酒造りを目指して、全量を但馬流「生酛(きもと)造り」、「山廃仕込」で日本酒を醸造しています。地元、兵庫県の良質な酒米を使い、香住鶴独自の造りで醸す酒は、しっかりとした旨味に爽やかな香り、喉ごしの良さと三拍子揃った飽きのこない味わいです。冷酒、常温は勿論、燗酒もおいしく召し上がれます。
また、近年は国内外の様々な日本酒のコンテストで受賞しており、日本国内は勿論、海外でも香住鶴の日本酒への評価が高まっています。今後共、兵庫の地酒の雄として、但馬の食文化の発展の為、一層貢献し、日本酒文化を振興させる事を目指しています。
また、香住鶴では限りある資源を最大限有効に活用すべく、さまざまな取り組みを行っています。
・松葉ガニ・香住ガニの蟹殻を原料とした有機肥料で自社生産の酒米を栽培
・貯蔵棟の屋根に井戸水を利用した散水設備を設置し冷房に使用する電気の削減
・会社内の照明を順次LED化し、電力使用量を削減
・紙パック詰製品のシュリンクフィルム包装を廃止し、原料となる石油・包装時に使用する電力を削減
日本酒の製造~出荷までには多量の電気、石油等の熱エネルギー、資源を必要としています。また日本酒の原料であるお米も地球温暖化の影響を大きく受けています。これからもさらなる高品質化、省エネルギー化をすすめてまいります。